2026年8月14日、「MVV Maastricht Cup」の開催に先立ち、ヨーロッパ在住の日本人ビジネスパーソンを対象とした「ビジネスカンファレンス2026」が開催された。

会場には約30名が集まり、スポーツビジネスや海外事業、人材育成をテーマに活発な意見交換が行われた。

全4回でお届けするカンファレンスレポート。第1回は、出島フットボール代表・利重孝夫氏による基調講演「出島・MVVが目指すことと現在地、ビジネスマンへのヒント」の内容を紹介する。

 

出島フットボールカンファレンス2026アフタームービー

 

初稿執筆:沖田瑛大(出島フットボール インターン)

編集:出島フットボール

記事:2026年9月26日


――フットボールの影響力を、社会やビジネスへの「発信力」に変える

「出島フットボールは、日本サッカー界を競技とビジネスの両面から支える人材を育成し、国内外をつなぐ「ハブ」のような存在をつくりたいと考えています。

その根底にあるのが、フットボールが持つ非常に大きな影響力です。今年6月~7月に開催されたFIFA World Cup 2026がその最たる例でしょう。参加チームの大幅増(36か国 →48か国)、豪華絢爛且つ大幅に時間超過したハーフタイムショーなど、旧来のサッカーファンからの批判を受けつつも、結果として過去最高の観戦者数と視聴者数を達成し、商業的な大成功は勿論、世界中の注目を集めるイベントになりました。

改めて感じたのは、フットボールには圧倒的な発信力があるということ。その影響力の中に我々が基盤と仕組みを作り、思いやメッセージを乗せることで、スポーツの枠を超えて、さまざまなことを発信し、実現できる。これが出島フットボールの活動の出発点です」

 

――出島が掲げる4つの大目標

「やはり我々の事業の中心はクラブ経営であり(MVV Maastrichtに出島は50%出資)、そのほかに我々が手掛ける事業も、クラブが中心にあって価値が高まる。そのクラブを活用しながら、人材育成や国際交流、ビジネスネットワークの構築など、より広い価値を生み出していくことを目指しています。我々の存在は、フットボール界のマルチ・プラットフォームと呼ぶのが適切ではないか、と。その中で4つの目標を掲げています」

 

――クラブ経営を基盤とした次なる打ち手

「一つ目は『日本の競技レベル向上』。選手は勿論、コーチ・トレーナーの成長も含まれる広義のレベル向上です。今回の国際ユース大会(8月15~16日の日程でマーストリヒトで開催)の開催は、後述しますが、その中でも特に重要な位置づけとなります。

また、今年(2026年)3月には宮崎県から中学生選抜チームCopa Blau Rojoがマーストリヒトまで遠征し、地域の大会に参加をしてくれました。早い段階で欧州サッカーに触れることは勿論、親元を離れ異文化を知る大変良い機会になったと引率者の方から嬉しいお言葉を頂きました」

「そして『ビジネス人材育成』と『学術機関との連携』。この1年間、特に力を入れてきたのが、この2つの目標です。MVV Maastrichtという実際のプロフットボールクラブの経営に関わることで、日本人のビジネス人材が海外の現場で経験を積む機会をつくる。

我々は北海道教育大学 スポーツ経営戦略研究室と産学連携しており、同研究室の福田拓哉准教授の下で学生達が、日々 独自の観点から素晴らしい研究レポートを作ってくれています。MVVもその研究対象の一つとして頂いており、今年2月にはその成果をMVVクラブ経営陣に対して発表をする機会を作ることが出来ました。本日の国際ユース大会とビジネスカンファレンスの運営サポートにも同研究室の学生が参加しています。

今後の事業では、出島の理念に共鳴してくれる、多様多才な人材たちに携わって頂くこととなります。」

「最後に『欧州での拠点機能・Hub機能構築』。本日のビジネスカンファレンスによる情報発信もその一つと言えるでしょう。この拠点機能を多くの方に利用して頂き、競技面に留まらず、経営・運営の情報交換や人材交流が進むことを切望しています」

 

――中長期的には日本人選手の獲得を目指す

「もちろん、我々としても日本人選手がMVV Maastrichtでプレーし、活躍する姿は実現したいと考えています。

オランダでは自国選手の育成環境を守るため、EU域外の選手を獲得する際に最低年俸に関する規定があり、現時点では経営上、現実的な判断とは言いにくい状況です。ですが、我々の目指す『日本の競技レベル向上』の観点では外せないピースですので、クラブの売上規模を拡大し、経営基盤を強化することで、中長期の観点で日本人選手の獲得を目指します。

また、クラブとして実績を積み重ね、日本人選手がオランダの至るところで活躍することが日常化すれば、現在の最低年俸制度そのものについてもオランダ国内で議論を提起できるプレゼンスを作れると思います」

 

――オランダ2部リーグの環境

「経営面で一つ特徴的なのは、現在の制度上、2部から3部への降格がないことです。

一般的にプロスポーツクラブの経営では、降格リスクが非常に大きな経営変動要因になります。広告価値が大幅に下落し、結果としてスポンサー収入を多く失う。その点、MVV Maastrichtでは中長期の視点に立った経営に集中ができます。

もちろん競技成績を軽視するという意味ではありません。むしろ、短期的な結果だけを追うのではなく、クラブの組織、育成、収益基盤などを継続的に強化できることに大きな意味があると考えています」

――MVV Maastricht Cupは、単なるイベントではなく「無形事業資産」

「MVV Maastricht Cupは、17歳以下カテゴリーを対象とした国際ユース大会です。日本の感覚で言えば、主に高校2年生以下の年代になります。

この年代を対象にしたことには明確な理由があります。高校3年生になると、すでに卒業後の進路が決まっている選手も多い。一方、高校2年生以下の年代であれば、これから進路を決めていく選手が多いため、スカウトするクラブ側にとっても、選手本人にとっても、新たな可能性を見つける機会になります」

「非常に重要なのは、出島フットボールが『ここまでの規模とレベルの国際大会を実際に運営できる組織』であるという実績を国内外に示すことです。我々がMVV Maastrichtの経営に参画しているからこそ、大規模な大会施設を確保でき、欧州各国のクラブとのネットワークにアクセスできます。その信頼関係があったからこそ、実績がない第一回大会にもかかわらず、スペインVillarreal CFなど欧州強豪チームに参加して頂くことができました。正直なところ、私自身にも想定以上の結果となりました」

「まず1回目を成功させる。それを2回目、3回目につなげていく。今回メインスポンサーとなって頂いたミズノと近畿日本ツーリストと手を合せ、大会そのものを継続的な事業として成長させることが、出島フットボールの中長期的な活動を支える重要な基盤、『無形事業資産』であり『IP資産』になると考えています」

2日間に渡り開催されたMVV Maastricht Cup。4か国8チームが参加し、熱戦が繰り広げられた。多くの観客が足を運んだ大会はベルギーのアントワープFCの優勝で幕を閉じた。

――ユース大会と同時にビジネスカンファレンスを開催した理由

「我々がもう一つ重視しているのが、欧州での情報発信です。日本人は非常に良い商品やサービスをつくる力を持っています。ただ、『良いものをつくれば、自然に売れる』という考え方だけでは、今の時代は難しいのではないでしょうか。特に日本人が苦手としているのが、自分たちの価値を外部に向けて適切なフォーマットで発信することだと思っています。

だからこそ、出島フットボールとして、スポーツビジネスの最新情報を発信し、人と人がつながる場を提供したい。その一つが今回のビジネスカンファレンスです」

「一人が発信することで、それを受け取る人がいる。そこから新しいつながりが生まれ、さらに別の人や企業に波及していく。結果としてマーストリヒトを起点に、日本と欧州が繋がる。そのような循環をつくることができれば、MVV Maastrichtそのものの価値も高まりますし、出島フットボールが目指している「ハブ」としての機能にもつながっていくと思います」

カンファレンスにはオランダ、ベルギー、ドイツ、スペインから30名の現地日本人が集まり、熱心に耳を傾け、活発な質疑応答が行われた。


MVV Maastrichtへの経営参画から約1年。出島フットボールは、社会的影響力を持つフットボールクラブMVVの経営を基盤とし、競技力向上、人材育成、産学連携、国際交流拠点構築、情報発信といった複数の取り組みを有機的に組み合わせたマルチ・プラットフォームの構築を着実に進めている。

更に、次なる打ち手として、フットボールクラブへのM&Aや経営面・競技面でのアドバイザリー業務にも取り組んでいる。講演後の8月末には、清水エスパルスの主要株主・鈴与㈱によるデンマークSuperliga所属Randers(ラナース)FCの経営権取得が発表された。本案件において出島フットボールは、買主側投資アドバイザーとして参画し、案件の発掘から交渉、成約に至るまで一連のM&Aプロセスを成功に導いた。

https://www.suzuyo.co.jp/news/notice/2026082901.html


利重孝夫氏プロフィール

出島フットボール(Deshima Football Consultancy BV)共同代表。
読売クラブ(現・東京ヴェルディ)ユース出身。興銀を経て楽天に参画し、常務取締役に就任。2002年、自身が育った東京ヴェルディの胸スポンサー契約を機にスポーツビジネスの世界へ。その後、ヴィッセル神戸の経営権取得やFCバルセロナとの提携に尽力。2014年からはシティ・フットボール・グループ(CFG)日本法人代表として横浜F・マリノスのJ1優勝やマンチェスター・シティ来日興行を牽引。2023年にCFGを退任後、自身の経験と人脈を還元し「次世代のスポーツビジネス人材を欧州で育成する母体」を作るべく、2024年に出島フットボールを設立した。


次回、第2回はビジャレアルC.F.フットボールマネジメント部より佐伯夕利子氏の講演「ビジャレアルに学ぶ、ビジネスパーソンの『育てる技術』」をお送りします。こちらもぜひ楽しみにお待ちください。