執筆者:小原一真
所属:北海道教育大学岩見沢校スポーツ産業研究室4年 (2026年3月卒業)

オランダリーグ各クラブの成長要因分析:事例③ ズウォレ編

この記事は、『オランダリーグ各クラブの観客動員に関する成長要因分析』の続編として、観客動員の成長率が特に高い4クラブ「AZ」「トゥエンテ」「ズウォレ」「ゴーアヘッド・イーグルス」の詳細分析を全4回にわたり掲載するものです。(参照記事:【コラム】オランダリーグ各クラブの観客動員に関する成長要因分析

目次

1.クラブ概要
2.成長要因の分析
2-1 昇格効果
2-2 スタジアムに関する効果
2-3 成績による影響
2-4 スター選手効果
3.総括

1.クラブ概要

PEC Zwolle(ピー・イー・シー・ズウォレ)は、1910年6月12日に設立されたオランダ・ズウォレを本拠地とするプロサッカークラブです。クラブの愛称は「Blauwvingers(ブルーフィンガーズ)」で、現在はエールディヴィジに所属しています。2014年にはKNVBカップで優勝し、タイトル獲得の実績も持っています。ホームスタジアムはMAC³PARK Stadionで、2007年に建設が開始され、2009年に開場しました。スタジアムはその後の改修を経て収容人数は約14,000人となり、ホテルやオフィスなどの複合施設も併設しています。また、スタンドにはクラブゆかりの人物の名前が付けられるなど地域密着型の運営が特徴です。

2.成長要因の分析

2-1昇格効果

下図は、同クラブの04-05シーズンから23-24シーズンまでの年間平均観客数の推移を示したものです。青色はエールディヴィジ在籍時、赤色はエールステディヴィジ在籍時を示しています。ズウォレは12〜13シーズンに昇格して以降、22〜23シーズンに一度降格したのみで、安定してエールディヴィジに所属しています。昇格前の11〜12シーズンの平均観客数は8,068人でしたが、昇格後の12〜13シーズンは10,783人と約3,000人増加しました。その後も観客数は増加傾向を維持しており、ズウォレにおける昇格効果は非常に大きいと考えられます。

(図1)ズウォレ年間平均観客者数推移

2-2スタジアムに関する効果

PECズウォレのホームスタジアムである MAC³PARK Stadion は2007年に建設が始まり、2009年に完成しました。当初の収容人数は10,000人でしたが、2012年のエールディヴィジ昇格に合わせて改修が行われ、12,500人まで拡張されました。さらに2018年にも増築が行われ、現在は14,000人を収容できるスタジアムとなっています。

スタジアム完成後の09〜10シーズンについて見ると、観客数は大きく変化していません。しかし翌10〜11シーズンには約2,000人増加しました。もっとも、10〜11シーズンが2位、11〜12シーズンが1位と、2部リーグで非常に好成績を収めていたため、スタジアムの影響のみを切り分けることは困難です(成績の影響については後述します)。

12〜13シーズンには昇格に伴い2,500席が追加され、観客数も大幅に増加しました。13〜14シーズン以降は12,000人以上を安定して動員しており、高い集客率が続いています。さらに、座席を増やした18〜19シーズン以降も(コロナ禍の期間を除けば)13,000人を超える動員が多く、エールディヴィジでも屈指の集客力を持つクラブとなっています。

ズウォレのケースでは、

1.昇格に合わせた座席数の拡大

2.エールディヴィジで安定した成績を維持し、継続的に集客率が高まる環境を作る

といった好循環が見られます。

このことから、スタジアム要因だけを単独で評価するのは難しいものの、昇格や成績といった他の要因と組み合わせることでスタジアム効果を最大化している好例と言えます。

2-3成績による影響

ズウォレの場合、順位の上昇が平均観客数の増加につながったとみられるシーズンがいくつかあります。具体的には、10〜11シーズン、11〜12シーズン、22〜23シーズンです。これらはいずれもエールステディヴィジ所属時であり、昇格争いが盛り上がった期間だったと推測されます。

一方で、21〜22シーズンは最下位の18位となり降格した年ですが、観客数は減少傾向にありました。ただし、このシーズンはコロナ明けで観客動員が通常時と異なる可能性があります。

こうした傾向から、ズウォレにおいては残留争いよりも昇格争いの方が観客動員増につながりやすいと考えられます。

さらに、ズウォレは13〜14シーズンにKNVBカップ、14〜15シーズンにスーパーカップで優勝しています。今回使用した平均観客数のデータはリーグ戦に限定したものですが、カップ戦での好成績がクラブへの注目度を高め、12〜13シーズンと比べて13〜14・14〜15シーズンの観客数が伸びた一因になっている可能性があります。

以上より、ズウォレでは昇格争いの盛り上がりやカップ戦の優勝といった要素が観客動員の増加に寄与していることが分かりました。

 

(図2)ズウォレ平均観客者数と順位

2-4スター選手効果

次に、大きく観客数が増加した12〜13シーズン、および降格していたにもかかわらず観客数が増えた22〜23シーズンについて、スター選手効果を検証します。分析方法は、ゴーアヘッド・イーグルスのケースと同様に、各シーズンのリーグ内トップ選手の市場価値と、ズウォレで最も市場価値の高い選手を比較する方法を採用しました。

(表1)ズウォレスター選手比較

シーズン

ズウォレ選手名市場価値リーグ内

トップ選手名

リーグ内トップ選手市場価値

12-13Youness Mokhtar

(モロッコU-23代表)

1.00m€Christian Eriksen

(元デンマーク代表)

アヤックス

18.00m€

22-23

Ryan Thomas 

(ニュージーランド代表)

1.30m€Antony

(ブラジル代表)

アヤックス

60.00m€

表から分かる通り、ズウォレ所属選手の市場価値はいずれのシーズンでもリーグトップ選手とは大きな差があります。また、同クラブの選手はいずれも代表歴を持っていますが、キャップ数が多いわけではなく、アンダー世代の代表経験にとどまるケースもあり、明確なスター選手と呼べる存在は多くありません。

このことから、ズウォレにおいてスター選手が観客動員に与える影響は限定的であると判断できます。

また、エールディヴィジのビッグ3(アヤックス、PSV、フェイエノールト)と比較したクラブ全体の市場価値を見ても、両者の差は明白です。特に22〜23シーズンはその開きが大きく、スター選手を複数抱えるビッグクラブと肩を並べる水準にはありませんでした。

以上より、市場価値の観点から見ても、ズウォレにおけるスター選手効果はほとんど確認できませんでした。

(図3)ズヴォレとオランダビッグ3の市場価値比較

ズウォレ分析結果まとめ

昇格スタジアム成績スター選手
◯(昇格争い)

×

3.総括

ズウォレは、昇格を契機として観客動員が大きく伸びた典型的なクラブであり、12〜13シーズン以降はエールディヴィジで安定した集客を維持してきました。スタジアムの段階的な拡張と、リーグ戦での着実な成績向上が相互に作用し、観客数の増加を後押しした点が特徴的です。特に、昇格時に座席数を拡大したことで需要に応えられる環境が整い、1万2000人超の動員を安定して確保できるようになりました。

一方で、ズウォレの観客増にはスター選手の存在が大きく寄与したとは言えず、市場価値の観点からもスター選手効果は限定的でした。成績面では、残留争いよりも昇格争いの方が動員増につながりやすく、さらにはKNVBカップ制覇やスーパーカップ優勝といったタイトル獲得がクラブの注目度向上に寄与したと考えられます。

以上を踏まえると、ズウォレの観客動員増加は、「昇格を起点とした成績向上」と「それに合わせたスタジアム拡張」によって生み出された好循環が最も大きな要因であり、スター選手依存ではなく、クラブ全体の成長戦略による底上げ型の発展であったと言えます。

 

<参考文献>

Over het MAC³PARK Stadion PEC Zwolle
https://peczwolle.nl/over-het-mac3park-stadion

Clubhistorie-peczwolle.nl PEC Zwolle
https://peczwolle.nl/clubhistorie

PECズウォレ-クラブプロフィール transfer markt
https://www.transfermarkt.jp/vv-pec/startseite/verein/1269

アヤックス・アムステルダム-クラブプロフィール transfer markt
https://www.transfermarkt.jp/ajax/startseite/verein/610

PSVアイントホーフェン-クラブプロフィール transfer markt
https://www.transfermarkt.jp/psv/startseite/verein/383

フェイエノールト・ロッテルダム-クラブプロフィール transfer markt
https://www.transfermarkt.jp/feij/startseite/verein/234