2026年2月21日。Jリーグ、日本代表、そして欧州の第一線で長年活躍された森岡亮太さんによる、オンライン講演会が開催されました。

対象は、同年3月末に約1週間のオランダ遠征を控える選抜チーム(セレソン都城FC、FCブリラーレ、FCヴァロー唐津)の選手達と保護者の皆さん。本遠征では、森岡さんが欧州で展開する食事サポート事業を通じて、現地での食事を全面的にバックアップいただくことも決定しています。

キャリアに大きな影響を与えた転機や、8年半もの海外挑戦で得た経験、そしてプロへの道を切り拓く不可欠な要素となった食事の重要性について――。多くの質問を交えて語りつくした1時間、その濃密な内容をレポートします。

執筆者:保坂琉介(出島フットボール インターン)
記事:2026年3月25日


(オンライン講演会の様子)

ブラジル代表が教えてくれた世界との本当の距離

講演の冒頭、森岡さんが提示したのは一枚の写真。それは、2014年10月の国際親善試合でブラジル代表のエース、ネイマール選手と対峙する自身の姿です。この一戦こそが、自身のキャリアに大きな影響を与える転換点となりました。

「この試合でネイマールに4点取られて、0-4で負けました。日本トップレベルの選手が集まる日本代表が、相手が全然プレスにきてないのに逃げのパスばかり。何か凄く追い込まれているような感覚で、正直その試合でブラジルと4点以上の差を感じました。その年は、ヴィッセル神戸で主力として10番を背負い、Jリーグの優秀選手にも選ばれてというレベルまで来ていた自分にとって、この差は物凄い衝撃でした。」

「このままJリーグにいても、あのレベルとは戦えない。個人としてレベルアップし、日本代表を強くするためには、彼らの居るヨーロッパの市場に入って、あのレベルでプレーできる実力を付けなければならないと思わされました。自分の中で、何が何でもヨーロッパに行くんだっていう覚悟が決まった試合です。」

この試合を契機に、2016年1月、プロデビューから6年間を過ごしたヴィッセル神戸を離れ、ポーランド1部シロンスク・ヴロツワフへ移籍。以降、ポーランドで1年半、ベルギーで7年間、計8年半に及ぶ欧州でのキャリアを築くこととなります。

(ポーランド1部シロンスク・ヴロツワフでプレーする森岡さん)
出典:SportoweFakty

自分と向き合う時間が人を成長させる

ブラジル戦での衝撃を経て、初の海外移籍を果たした森岡さん。そこで待ち受けていたのは、言葉も文化も異なる過酷な環境でした。

「海外に行くと、まず言葉が全く違う。自分の思いが伝わらない、相手の言っていることが分からない。これは想像以上にハードで、精神的につらいものがあります。日本では周囲と日本語で何も意識せずにコミュニケーションを取れますが、それが全くできない環境に置かれたとき、今まで居た場所がいかに楽だったかを思い知らされました。」

「日本なら嫌なことを理解してくれる人が周りにいるし、誰かが慰めてもくれる。でも、海外ではそうはいかない。そんな逃げ場のない孤独な環境に身を置くことで、『自分と向き合う時間』が増えました。この時間は人を成長させる上ですごく大切なもので、来月の遠征で、みんなにも少しでもこれを感じてもらいたいと思っています。」

さらに、多国籍な選手が集う欧州での日々は、競技面だけでなく一人の人間としての『幅』を広げる経験となりました。

「欧州ではヨーロッパ、アフリカ、南米、アジアなど、多様な人種と関わります。文化や思想を含め、日本では想像もできないような価値観に出会う。そんな彼らと一つのチームとして勝利を目指す中で、自分がより活きる方法を考えなければならない。この経験が、人間としての『幅』を大きく広げてくれたと思います。」

「集団で結果に向き合いながら、個のレベルアップにも取り組む。このプロセスを海外の厳しい環境で経験できたことは、今のセカンドキャリアにおいても、一般的な社会経験と比較して間違いなく大きなアドバンテージになっています。」

(ベルギー1部アンデルレヒトにて、同僚とゴールを喜ぶ森岡さん)
出典:サッカーダイジェストWeb

10歳の「あの日」から変わった、食への意識

そして、講演の話題は「食」へと移ります。森岡さんは現在、欧州へ挑戦する日本人選手を支援する食事サポート事業を展開しており、今回のオランダ遠征でも、お弁当の提供をはじめ選手たちの食生活を全面的にバックアップしていただきます。

「欧州では、日本の定食屋のような栄養バランスの整った食事は望めません。自炊なしに、必要な栄養素を摂取するのは本当に難しいんです。僕には妻の支えがありましたが、単身で挑む選手にとってそのハードルは非常に高い。選手がパフォーマンスに専念できる環境を欧州に構築したい――。その思いでベルギーで法人を立ち上げ、現在の活動に至っています。」

森岡さんがここまで食事に徹底する原点は、10歳の時に受けた栄養指導にありました。

「10歳の頃、京都トレセンの活動の一環で、小中高生が大学の講堂に集められて栄養指導を受けたんです。当時、何より驚いたのは『マクドナルド食べたらあかんの⁉』とか『炭酸飲料飲んだらあかんの⁉』とかで。それまで外食といえばマックやコーラが当たり前だった自分にとって、体作りに必要な習慣を知るのは初めてで、物凄い衝撃を受けました。」

「そして、その日を境に食生活をガラッと変えました。食事や飲み物に注意を払い、睡眠もしっかり取る。もともと食べるのが遅い方だったのですが、お弁当を休み時間と昼食の2回に分けて完食したり、食べる量を増やすために工夫もしました。実は、僕の両親は二人とも160cm以下なのですが、僕は183cm弱もあります。あの日から意識し続けたことが、身体の成長に影響していないとは全く思えません。こうした小さな積み重ねが本当に大事で、みんなが高校や大学を卒業する時に大きな差になって現れると思います。」

(講演会に登壇する森岡さん)
出典:Ryota Morioka Official

「きっかけ」を手に入れた、大切なのは明日からの「継続」

講演の最終盤、森岡さんは選手たちへ向けて、最も核心に触れるメッセージを投げかけます。

「今になって思うのは、あの日あの講堂にいた何百人のうち、何人が実際に行動を変えたかということです。確実なことは言えないけれど、プロになったのはおそらく一人か二人。そしてあの瞬間から、僕ほどまでに食事の大切さを意識し続けられた選手は、ほとんどいなかったのではないかと思います。」

「僕の話を聞いて、今は『こんなことしてみよう』『あんなことしてみよう』とモチベーションに溢れていると思います。今日、みんなは幸運にもそのきっかけを手に入れることができた。でも、上に行けるかどうか、ここから先は本当に君たち次第です。今日感じたことをどれだけ続けられるか、頑張ってほしいと思います。」

終始和やかな雰囲気で進んだ講演会でしたが、この言葉を伝える瞬間、森岡さんの眼差しが一瞬鋭くなったのが印象的でした。

まとめ

MVV Maastricht Football HUB、そして森岡さんのサポートのもと、選手たちは3月末にオランダ遠征へと出発します。日本とは全く異なる環境、言語、人種に触れる中で、選手たちはピッチ内外でどのような「きっかけ」を掴むのか。そして、持ち帰ったその種をどう育てていくのか。森岡さんが贈った言葉は、選手たちにとって極めて大きな指針となるはずです。

オランダ遠征の様子は後日レポートいたします。こちらも是非楽しみにお待ちください。

森岡亮太さんプロフィール:

京都府出身。
高校卒業後、18歳でヴィッセル神戸に入団し、Jリーグでプロキャリアをスタート。2014年には日本代表に初選出され、ウルグアイ戦でA代表デビューを果たす。2016年からはヨーロッパに活躍の場を移し、ポーランドおよびベルギーで8年半にわたりプレー。2024年にヴィッセル神戸へ復帰し、2025年3月に現役を引退。
現役引退後は、日本とヨーロッパでの経験を活かし、それぞれの地で法人を設立。アスリート向けの食事サポート事業をはじめ、講演活動や育成年代への取り組みなど、多角的に取り組んでいる。

Ryota Morioka Official:https://ryota-morioka.com/