
執筆者:小原一真
所属:北海道教育大学岩見沢校スポーツ産業研究室4年 (2026年3月卒業)
オランダリーグ各クラブの成長要因分析:事例① AZアルクマール編
この記事は、『オランダリーグ各クラブの観客動員に関する成長要因分析』の続編として、観客動員の成長率が特に高い4クラブ「AZ」「トゥエンテ」「ズウォレ」「ゴーアヘッド・イーグルス」の詳細分析を全4回にわたり掲載するものです。(参照記事:【コラム】オランダリーグ各クラブの観客動員に関する成長要因分析)
目次
1.クラブ概要
2.成長要因の分析
2-1 昇格効果
2-2 スタジアムに関する効果
2-3 成績による影響
2-4 スター選手効果
3.総括
1.クラブ概要
AZアルクマール(AZ Alkmaar)は、オランダ・北ホラント州アルクマールを本拠地とするプロサッカークラブで、正式名称は「Alkmaar Zaanstreek(アルクマール・ザーンストレーク)」です。クラブは 1967年 に「Alkmaar ’54」と「FC Zaanstreek」が合併して誕生しました。ホームスタジアムは AFASスタディオン で、2006年に旧スタジアムから移転して開場しました。スタジアムは2019年に屋根崩落事故が発生したものの、その後の改修工事と補強を経て、安全性と収容能力が改善されています。競技面では、AZはエールディヴィジにおける常連クラブであり、過去に 2度のリーグ優勝(1980–81、2008–09) を達成しています。また、KNVBカップの優勝歴も複数回有し、国内で着実に存在感を示してきました。欧州カップ戦でも継続的に出場しており、UEFAヨーロッパリーグではしばしば決勝トーナメントに進出するなど、オランダの中堅以上の競争力を持つクラブとして知られています。
2.成長要因の分析
2-1昇格効果
AZは、過去20年間にわたり一貫してエールディヴィジに所属しており、この期間に昇格・降格を経験していません。そのため、昇格による観客者数の増加効果は確認できません。
(図1)AZ平均観客者数
2-2スタジアムに関する効果
AZは05-06シーズンまでアルクマールハウトスタジアム(収容人数8,914人)を使用していましたが、06-07シーズンからは収容人数が17,023人のAFASスタジアムへと移行しました。スタジアムの大幅な収容人数増加に伴い、観客者数も急激に増加しており、新スタジアム効果が強く表れたことが確認できます。
しかし、2019年8月に発生した屋根崩落事故により、一時的に観客者数が減少しました。その後、2021年9月に主な改修工事が完了し、屋根の強化、収容人数の約17,000人から約19,500人への増加、音響設備の向上など、スタジアム環境が大きく改善されました。
その結果、2023-24シーズンには過去最高となる平均観客動員数18,226人を記録しています。これらの事実から、AZにおいては新スタジアム建設および改修工事が観客動員数の増加に大きく寄与していると結論づけられます。
2-3成績による影響
AZは過去20年間で1度のリーグ優勝を経験しており、ほとんどのシーズンで上位に食い込む国内有数の強豪クラブです。グラフを確認すると、順位は安定して高く、数年単位で成績が低下するシーズンがあるものの、観客動員数には大きな変動は見られません。
これは、AZがアヤックス・フェイエノールト・PSVに次ぐ実力を持つクラブとして定着しており、熱狂的なファン層を多く抱えているため、成績による観客動員数の変動が比較的少ないためだと考えられます。
(図2)AZ平均観客者数と順位
2-4スター選手効果
観客者数の伸びが顕著であった 06-07シーズンと、過去20年間で最高の平均観客動員数を記録した23-24シーズンの2つを対象に、スター選手効果を検証しました。分析手法は、各シーズンにおけるリーグ内トップ選手の市場価値と、AZ所属選手のうち最も市場価値が高かった選手を比較するものです。
(表1)AZスター選手比較
シーズン | AZ選手名 | 市場価値 | リーグ内 トップ選手名 | リーグ内トップ選手市場価値 |
06-07 | Joris Mathijsen (元オランダ代表) | 8.50m€ | Wesley Sneijder (元オランダ代表) アヤックス | 14.50m€ |
| 23-24 | Vangelis Pavlidis (ギリシャ代表) | 25.00m€ | Mohammed Kudus (ガーナ代表) アヤックス | 50.00m€ |
まず、06-07シーズンのJoris Mathijsen選手は、オランダ代表として84試合に出場しており、一定の実績を持つ選手でした。Sneijder選手がオランダを代表するスターであることを踏まえると、市場価値の差は存在するものの、Mathijsen選手も「スター選手に近い存在」であったと評価できます。
一方、23-24シーズンのVangelis Pavlidis選手はギリシャ代表で53試合に出場し、現在も欧州強豪クラブ(ベンフィカ)で市場価値を伸ばしている点から有望株と捉えられます。しかし、Kudus選手の市場価値がその約2倍であることを考慮すると、Pavlidis選手を「リーグを代表するスター」とみなすことは難しいと判断されます。
以上より、06-07シーズンには一定のスター性を持つ選手が在籍していた可能性が示唆されるものの、観客者数の伸びの主因は、むしろ新スタジアム建設による影響が大きいと考えられます。また、23-24シーズンにおいては、市場価値の観点から判断してもスター選手効果は限定的であると推測されます。
さらに、エールディヴィジのビッグ3(アヤックス、PSV、フェイエノールト)とクラブ全体の市場価値を比較すると、06-07シーズンでは差が比較的小さかったのに対し、23-24シーズンでは大きく開いています。この点からも、06-07シーズンはスター選手に近い選手が一定数存在した可能性がある一方、23-24シーズンにはその傾向がほとんどみられないことが確認されました。
(図3)AZとオランダビッグ3のクラブ市場価値比較
AZ分析結果まとめ
| 昇格 | スタジアム | 成績 | スター選手 |
| × | ◯ | × | △ |
3.総括
AZアルクマールの過去20年間の観客動員推移を分析した結果、同クラブの成長を支えてきた最大の要因は「スタジアムの新設と改修」であることが明確になりました。06-07シーズンにAFASスタジアムへ移行したことで収容人数が大幅に拡大し、それに伴い観客動員数は急激に増加しています。さらに、2019年の屋根崩落事故後に実施された改修工事によって施設の安全性や機能性が向上し、23-24シーズンには過去最高の平均観客動員数を記録するに至りました。これらの点から、スタジアム環境の改善が観客数増加に最も強く寄与したと結論づけられます。
一方、競技成績については、AZが長年にわたり上位を維持する強豪クラブであるにもかかわらず、観客動員数に大きな変動は見られませんでした。これは、クラブがアヤックス、PSV、フェイエノールトに次ぐ安定した実力を持ち、熱心なファン層を確立しているため、短期的な成績変動の影響を受けにくい構造にあるためだと考えられます。
また、スター選手効果については、06-07シーズンにはJoris Mathijsen選手のように一定のスター性を持つ選手が在籍していた可能性があるものの、観客増加の主因とまでは言えません。23-24シーズンでは市場価値の面からみてもスター選手効果は限定的であり、観客動員の伸びは主にスタジアム改修と環境整備の影響によるものです。
以上より、AZの観客動員数の成長は「スタジアムの質と安全性の向上」が最も大きな要因であり、成績やスター選手は補助的な要因にとどまることが分かりました。クラブとして長期的な観客動員の維持・拡大を図るためには、施設面の継続的な改善と安定した競技力の保持が重要であると評価できます。
<参考文献>
AFAS Stadion AZ.nl
https://www.az.nl/club/afas-stadion
AZアルクマール-クラブプロフィール transfe markt
https://www.transfermarkt.jp/az-alkmar/startseite/verein/1090
アヤックス・アムステルダム-クラブプロフィール transfer markt
https://www.transfermarkt.jp/ajax/startseite/verein/610
PSVアイントホーフェン-クラブプロフィール transfer markt
https://www.transfermarkt.jp/psv/startseite/verein/383
フェイエノールト・ロッテルダム-クラブプロフィール transfer markt
https://www.transfermarkt.jp/feij/startseite/verein/234




