国立北海道教育大学 MVV Maastricht Football HUB

執筆者:小原一真
所属:北海道教育大学岩見沢校スポーツ産業研究室4年

オランダリーグ各クラブの観客動員に関する成長要因分析

この記事は、「未来のフットボール人材育成」をヴィジョンに掲げる出島フットボールが運営するMVV Maastricht Football HUBと国立北海道教育大学岩見沢校との連携により、スポーツ産業室の学生の研究成果の一環として掲載されています(参照記事:【コラム・前編】ヨーロッパサッカー市場分析に基づくオランダサッカーの可能性)。

目次:

1.オランダリーグ各クラブの平均観客者数成長率
1-1.04-05シーズンと23-24シーズンの平均観客者数の比較の背景
1.2.04-05シーズンと23-24シーズンの平均観客者数の比較の結果
2.成長率に基づく要因仮説の検証
2-1.仮説の立案
2-2.クラブ選定理由
3.総括

1.オランダリーグ各クラブの平均観客者数成長率

1-1.04-05シーズンと23-24シーズンの平均観客者数の比較の背景

オランダのエールディヴィジ(1部)とエールステディヴィジ(2部)の観客動員の成長要因を検証するため、04–05シーズンから23–24シーズンまでの20年間のデータを用いて分析しました。20年という長期のデータを採用した理由は、単年データでは把握しにくい「構造的な成長」を明確に捉えるためです。観客動員はチーム成績や一時的な話題性によって大きく変動することが多く、短期分析では偶発的な増減が成長要因として過大評価されてしまう恐れがあります。その点、20年間という期間は、昇格・降格、スタジアム新設、クラブ運営の改革といった中長期の施策が観客動員にどのような影響を与えたのかを見極めるのに十分です。特に、スタジアム投資の効果や下部リーグからの継続的な動員増は、複数年のデータがなければ「トレンド」として把握することが難しくなります。そういった理由から、エールディヴィジとエールステディヴィジの20年間の観客動員数のデータを用いて、両リーグ合計34クラブを対象として今回分析しました(セカンドチームおよび20年前のデータが存在しないクラブは除外しています)。

1-2.04-05シーズンと23-24シーズンの平均観客者数の比較の結果

04–05シーズンと23–24シーズンを比較した結果、平均観客者数の成長率が最も高かったクラブはゴーアヘッド・イーグルスで364%に達しました。一方、最も低かったローダは75%にとどまり、クラブ間で成長率に大きな差が見られました。全34クラブのうち300%を越えたクラブが3つ、200%を越えたクラブが7クラブと、約3分の1で大幅な伸びが確認されており、特定クラブに限らないリーグ全体としての観客基盤の拡大がうかがえます。
平均成長率は166%でしたが、これは一部クラブの大きな伸びが全体の数値を押し上げている側面もあります。特に、下部リーグからの昇格やスタジアム整備を重ねてきたクラブでは伸び率が高く、「昇格効果」や「スタジアム効果」が動員増に寄与した可能性を示す結果となりました。一方、アヤックスやPSV、フェイエノールトのように元々一定の動員を維持してきたクラブでは伸び率が小さく、伸びしろの差も確認されました。
もっとも、20年前と現在ではリーグ環境やスタジアムの快適性、放映権市場などが大きく変化しており、成長率にはこうした時代背景による構造的影響も含まれています。そのため、観客増の要因すべてをクラブの取り組みだけに求めることはできません。しかし、今回の20年の比較については、こうした環境変化を含む“長期的な観客動員の実態”を客観的に可視化するために設定したものであり、短期データでは捉えにくい主要因を浮かび上がらせるための基礎材料として機能しています。

北海道教育大学岩見沢校 MVV Maastricht Football HUB(図1)エールディヴィジ・エールステディヴィジ成長率に関するグラフ

2.成長率に基づく成長要因仮説の検証

2-1.仮説の立案

観客動員数の成長要因を明らかにするため、①昇格効果、②スタジアムに関する効果、③成績、④スター選手効果の4つを主要仮説として設定しました。欧州サッカーの観客動員に関する既存研究では、これらの要素が動員変動の主要因として繰り返し指摘されており、20年スパンという長期的な比較においても有効に機能すると考えられます。そのため、本分析ではこの4点を中心的な仮説として扱うことにしました。

①昇格効果
昇格はクラブのステータスを大きく押し上げる「外部ショック」であり、対戦カードの魅力向上や新規観客層の獲得につながるケースが多く見られます。オランダでは1部昇格に合わせてスタジアム整備やマーケティング施策が強化される傾向があり、動員増に与える影響が大きいと考えられるため、主要仮説として設定しました。

②スタジアムに関する効果(新設・改修・収容増)
スタジアムの新設や大規模改修は、観戦体験の向上を通じて中長期的な観客動員を押し上げる最も安定した要因の一つとされています。快適性や視認性、アクセスの改善によりライト層の来場も促されるため、20年間の動員成長を説明する重要な要素として位置づけました。

③成績(リーグ順位・競技面の成長)
クラブの成績は短期・中長期の動員に関わる基本的な指標です。成績向上は「勝つチームを観たい」というファン心理を刺激し、メディア露出の増加やスポンサー拡大などの副次的効果も期待できます。長期的分析では、成績の“持続性”が観客基盤に与えた影響を評価できるため、仮説の一つに設定しました。

④スター選手効果
スター選手は国内外の注目を集め、「観たい選手がいる」という明確な動機を生み出す直接的な集客要因です。有望な若手や代表クラスの選手が所属した期間には、短期的な動員の跳ね上がりが生じるケースも多く、この効果を独立した仮説として扱いました。

2-2.クラブ選定理由

本研究では、図1で示した成長率をもとに、300%を越えているゴーアヘッド・イーグルスとズウォレ、200%を越えているトゥエンテとAZの計4クラブを検証対象として選定しました。これらのクラブは、単に「元々の観客者数が少なかったから伸びやすくなった」という一要因では説明できず、複数の要因が複雑に絡み合うことで観客動員数を大きく伸ばしてきたという特徴を持っています。そのため、本研究で設定した仮説を多角的に検証する上で適した対象であると判断しています。

北海道教育大学岩見沢校 MVV Maastricht Football HUB

3.総括

本研究では、オランダリーグに所属する34クラブを対象に、20年間にわたる観客動員の推移を分析し、その成長をもたらした要因を全体的に整理しました。長期データを用いた理由は、単年では捉えきれない構造的なトレンドを明確化するためであり、その目的は十分に達成できたと考えております。分析の結果、クラブ間で成長率に大きな差がみられた一方、リーグ全体として観客基盤が拡大している傾向も確認されました。

さらに、観客動員を押し上げる要因として、①昇格効果、②スタジアム新設・改修、③成績、④スター選手という4つの主要仮説を設定し、今後の検証の枠組みを整理いたしました。この仮説立てにより、単なる偶発的要因ではなく、持続的な観客増加を説明しうる構造的メカニズムを検討できる基礎が整ったといえます。

また、成長率が特に高かった「ゴーアヘッド・イーグルス」、「ズウォレ」、「トゥエンテ」、「AZ」の4クラブを詳細分析の対象として選定いたしました。これらのクラブは、一つの要因だけでは説明しきれない、複数の要素が絡み合うことで大幅な観客動員の伸びを実現している点に特徴があり、仮説の多角的検証に最も適した事例であると判断しております。

次回以降の記事では、これら4クラブを順に取り上げ、設定した①〜④の仮説をもとに具体的な成長要因を検証していきます。

 

参考文献:
エレディヴィシー-Attendance figures 「transfer markt」
https://www.transfermarkt.jp/eredivisie/besucherzahlen/wettbewerb/NL1

 

記事:2025年12月08日

執筆者:小原一真
所属:北海道教育大学岩見沢校スポーツ産業研究室4年

鳴島守羽

写真左:鳴島 守羽/写真中:飯塚晃央/写真右:小原一真

福田拓哉

スポーツ産業研究室・准教授
福田 拓哉

「スポーツビジネス戦略参謀本部」

Jリーグ、プロ野球、Bリーグでの実務経験と、大学での15年に及ぶ教育研究経験を併せ持つ北海道出身の経営学博士です。研究室では、各種経営数値や現地視察、現場担当者へのヒアリングなどからプロスポーツ組織の課題をあぶり出し、その解決や成長に向けた戦略を立案し、実行できる能力を身につけることを目的に学んでいます。国内外のプロスポーツを題材に経営学を学び、日本のプロスポーツをより成長させられる人材の育成を行います。

国立北海道教育大学岩見沢校:

国立北海道教育大学岩見沢校は、北海道岩見沢市に拠点を置き、国立北海道教育大学の教育学部に所属する「芸術・スポーツ文化学科」を中心とした教育を行っています。芸術・スポーツビジネス専攻では、「芸術・スポーツ文化」の価値を総合的に理解し、マネジメントや組織運営など、実践的な知識・能力を養い、社会や地域に還元できる人材育成を目指しています。スポーツビジネス研究・実践ともに豊富な経験を持つ福田拓哉准教授の協力の下、欧州スポーツビジネスを正に実践的に学ぶ教材としてMVV Maastricht Football HUBとの連携が実現しました。

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